本研究は、エシカルファッションのベンチャーブランドである「TSUNAGU PRODUCT」を題材に、エシカルファッション領域におけるビジネス的成長可能性を分析し、その手法の開発と実践を行なった。一般的なエシカルファッションブランドは、TSUNAGU PRODUCTに限らず、様々な背景の影響によりUNIQROやZARAといった世界的ファストファッションほどのビジネス的成長は出来ず、社会的認知を広げられないでいる。TSUNAGU PRODUCTの立ち上げと運営を通して、このエシカルファッションブランドにおけるビジネス的成長の可能性の分析と手法の開発と実践を行なった。
エシカルファッションとは、Ethical(倫理的)Fashion(ファッション)とあるように、環境問題、労働問題、人権問題などの社会問題に配慮した、良識にかなった素材の選定や購入、生産、販売をしている衣服、アクセサリー、靴などを指します。
エシカルファッションの推進団体The Ethical Fashion Forumはエシカルファッションを以下のように定義づけている。
1.Countering fast, cheap fashion and damaging patterns of fashion consumption(ファストファッション、安い使い捨て型のファッション消費に反する)
2.Defending fair wages, working conditions and workers’ rights(生産において労働者の賃金、権利、労働環境を守っている)
3.Supporting sustainable livelihoods(動植物の持続可能性をサポートしている)
4.Addressing toxic pesticide and chemical use(有毒農薬や化学薬品の使用の問題に取り組んでいる)
5.Using and / or developing eco- friendly fabrics and components(環境に優しい素材を開発、または使用している)
6.Minimising water use(水の使用量を最小限にしている)
7.Recycling and addressing energy efficiency and waste(リサイクルやエネルギー問題、ゴミ問題に取り組んでいる)
8.Developing or promoting sustainability standards for fashion(ファッションにおけるサステナビリティを作りだし、それを広めようとしている)
9.Resources, training and/ or awareness raising initiatives(新たな取り組みを人々に知らせ、解決策を広めようとしている) Animal rights(動物の権利を保護している)
ファッション業界は、その競争の激しさから生産段階における強制労働や化学薬品による環境への悪影響が起きている。2013年4月24日、バングラデシュのサバールという場所で、ラ ナプラザビルが倒壊した事故は記憶に新しいだろう。ラナプラザビル崩落事故に代表される、環境問題、労働問題、人権問題への関心が高まり、1990年代頃から「エシカルファッション」という言葉が広まったとされている。現在では、H&Mや無印良品などの大手アパレルブランドもエシカルファッションへの取り組みを行なっている。
2013 年 4 月 24 日、バングラデシュのサバールという場所で、ラ ナプラザビルが倒壊し た。本ビルは、欧米の有名ブランドの工場や銀行などが入っていた商業施設であったが、無理な増築や想定定員以上の労働者が働いていたことにより1134名以上もの犠牲者を出すほどの事故が起きた。ラナプラザ事故や先進国の人々が日々消費するファストファッションの背景にある人権問題、環境問題に対して疑問を持つ声が増え、「エシカルファッション」に対する期待と注目が増す代表的な事件である。
上記でも示したように、現在では様々な大手ファッションブランドがエシカルファッションへの取り組みを行なっている。
しかし、このような取り組みはあくまでもプロジェクトベースであり、全てのラインナップで行われている訳ではないことも同時に抑えておかなければならない。
日本にもエシカルファッションに積極的に取り組みを行なっているブランドがいくつか存在する。その中でも、People Treeは日本のエシカルファッションを引っ張る代表的なブランドとして知られている。日本とイギリスでフェアトレード製品の製造、販売に取り組んでおり、オーガニックコットン等を使った商品を展開している。2012年には、代表のサフィア・ミニー氏が、世界の優れたエシカルファッションを表彰するThe SOURCE アワードを受賞した。
本研究の題材に採用した「TSUNAGU PRODUCT」は、「消費者と生産者をつなぐ」をミッションにする日本のエシカルファッションブランドである。2019年7月に第一号商品である「継なぐTシャツ」を発表し、現在までに約150枚が販売された。
Education for Sustainable Developmentの略で「持続可能な開発のための教育」と訳されています。2017年3月に公示された幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領より、「持続可能な社会の創り手」の育成が掲げられており、各教科等においても、関連する内容が盛り込まれた。
具体的には、持続可能な開発に関する価値観 (人間の尊重、多様性の尊重、非排他性、機会均等、環境の尊重等)を育むことを目的に義務教育課程における様々な教科のカリキュラムにESDが組み込まれている。
この様な取り組みにより、エネルギー問題や労働問題を幼少期から学んでいる世代が社会に10数年後に出てくる。そのことで、エシカルファッションに対する興味関心をもつ消費者は増え、現在よりもエシカルファッション領域の市場規模は大きくなると考えられる。
エシカルファッション領域における成功事例として、世界展開するPatagoniaがあげられる。営業利益などは公開されていないものの、2020年1月現在までに日本国内に22店舗の直営店を出店している。また、米国Patagoniaでは、2016年11月末頃に行われた大セール「ブラックフライデー」にて、1,000万ドルを売上、売上100%を環境保護団体に寄付したことも注目を集めた。
エシカルファッション領域において、新規参入ブランドがビジネス的成長を実現する上では主に以下の課題があげられる。
どのビジネスに置いても共通することではあるが、エシカルファッション領域においても、新規参入のベンチャー企業の最大の弱点は資金面であると考えられる。現在、ファストファッションが世界に浸透する中で、ファッション業界で勝ち抜くためには一定の資金力が必要となる。
資金面と同時に社会的に知られていないベンチャーブランドは、マーケティングが困難である。まずは、社会的認知度をあげることがビジネス的成長を遂げる上で必要となる。
上記で述べた様に今後エシカル消費やファッションに対する人々の関心は増すと考えられるが、現状ではエシカルファッション領域でグロースできるほどの関心は集まっていない。実際のデータとして、74.0%の消費者が購入の決め手は「価格」と答えている([ハピ研](https://www.asahigroupholdings.com/company/research/hapiken/maian/bn/200804/00231/))
以下の3つの手法の開発、実践を行なった。
上記で上げた全ての改善を目的に、最初の施策として、ラウドファンディングでの資金調達を実践した。
「消費者のエシカルへの関心不足」を改善することを目的に、オリジナルのアプリケーションの開発を行なった。
上記の施策に加え、ビジネスとしてエシカルファッション領域において成長する上で資金の調達は必要になると考えられる。そこで、「TSUNAGU PRODUCT」を題材にエシカルファッション領域においてベンチャーブランドの資金調達の可能性について分析、仮説検証を行なった
2019年7月23日から8月5日の13日間、クラウドファンディングサイトCampfireで23万円を目標にプロジェクトを行なった。プロジェクト方式は、目標金額が集まらなかった場合は、集まった金額を関係なしに全て返金される「ALL OR NOTHING方式」を採用した。
支援者にお礼として送るリターンは、TSUNAGU PRODUCTの第一号商品である「継なぐTシャツ」に設定。
「継なぐTシャツ」は、名前の通り生産者と消費者をつなぐTシャツです!
「継なぐTシャツ」のポイントは、この特徴的なロゴデザインです。
これは、Tシャツの産地であるバングラデシュの言葉でありがとうを意味する「ধন্যবাদ」をモチーフにデザインされています。
本製品を作っているバングラデシュの人々に感謝の気持ちを持って着て欲しいという想いと、このTシャツを購入してくれる方々への感謝の気持ちを込めています。
そして、ボディにもこだわりがあります!!
「継なぐTシャツ」を作成するにあたり、私たちのロゴをプリントするボディにもこだわりたいと思いました。そこで私たちは、Orgabits社のボディを選びました。
Orgabits社は、”地球のために、ちょっといいこと”をコンセプトにオーガニックコットンを通して地球環境に貢献している会社です。
例えば、インドのオーガニックコットン農家支援やオーガニックコットン普及のために様々な活動を行なっています。
(Orgabits社についてはこちらをご覧ください)
素材はもちろん100%オーガニックコットンで、デザイン以外にも、素材も「地球・人に優しいを徹底的に追求」しました。
オーガニックコットンとは、農薬や化学肥料を3 年以上まったく使用していない農地で、有機栽培されたコットンです。従来の栽培方法に比べ、水質や土壌の汚染を防ぐことができ、地球温暖化のリスクも減らすことができます。
クラウドファンディングページ、コンセプトページ、SNS用の写真を撮影。
・都内の写真スタジオをレンタル
・フルサイズの一眼レフカメラで撮影。
・モデル3人の手配
Campfireの機能上、文字と写真しかのせることが出来ないため、ブランドイメージや商品の世界観を伝えるためにコンセプトページを作成、公開。
「生産者について考えること」を促すためあえてログインページを設定。
66人の支援者により249,500円調達成功。
本施策の結果よりわかったことは、エシカルファッション領域に置いて新規参入をするベンチャーブランドは、23万円ほどの資金調達であれば、クラウドファンディングを活用することは有効的であるということだ。また、その他にも様々なことが本プロジェクトを通して考察が可能である。1つ目は、PVの推移である。プロジェクトを始めた初日をピークに徐々に減少をし、残り数日で回復をしている。序盤で、PVが増えている要因は、あらかじめ知人にお願いをし初日に支援をしてもらったことにより、CampFireのトップページなどに「急上昇プロジェクト」として掲載がされたことだと考えられる。また、2つ目は流入元である。今回のプロジェクトページへの流入は、ほとんどが「サイト内訪問」であることがわかる。サイト内訪問とは、Campfireを見ている層が本プロジェクトページに流入をしたということである。そこからどれだけの方が購入をしているかのCVRはCampfireの機能では追うことが出来ないが、少なくとも多くの人にブランドを知ってもらうキッカケにはなったと考えられる。最後にエシカルに興味・関心をもつ層についてである。本結果より、20代の女性がその他の層に比べより関心があることが若かった。
構築が比較的簡単でメンテナンスに工数がかからないWEBサービスをベースに、日本の人々が洋服の生産者について考える機会を増やす手法を検討・開発・実践を試みた。今後より注目が増えるであろう「エシカルファッション」、より簡単にかつ効率的に誰でも応用ができる様、一般的に普及しているtwitterとGoogle Mapを使い、消費者が服の生産者の距離を近く感じ服への思いやりを持つ機会を促す為のWebサイトの構築を行なった。しかし、問題点も複数あり、特に、違う言語を第一言語とする日本の消費者と生産者のコミュニケーションを活発化させる機能の実現にはめどが立っていない。現在は、試験・改善段階であるが、今後プログラミング技術がなくても誰でも書き換えやカスタマイズが可能な形でリリースすることで、様々なブランドやNPO・NGOと行った支援団体などが低コストで導入することが可能となり、活用されていくものであると考えられる。
ジオターゲティングで位置情報に合わせた適切なアプローチが可能に
スマートフォンのアプリと位置情報を活用した斬新なサービスを展開(ジーユー)
2020年現在までに、必要最低限の機能を搭載したテストサイトを構築した。
消費者が服の生産者の距離を近く感じ服への思いやりを持つ機会を促すことを目的に、Webサイトのテスト版の構築を行なった。
今回のテストサイトの構築を行うにあたっての前提条件は以下の通りである。
・CC BY 4.0に基づいた二次利用が簡単
・カスタマイズに高度なプログラミング技術を必要としない
・メンテナンスがしやすい仕様
商品を選択する
感謝を伝える
生産者との距離を確認する
商品がQRコードで自動選択される
感謝の言葉が自動翻訳される
生産者との距離を数字(文字)だけで出す
「カスタマイズに高度なプログラミング技術を必要としない」「メンテナンスがしやすい仕様」といった条件を満たす為に、現在までに最善と考えられる方法は、HTMLとCSSを用いコーディングし、GitHubレポジトリーにアップロードすることだ。しかし、現在までに実装できなかった機能が少なくとも上記の3つある。これらの機能の実装のために他の言語などを用いることも視野に入れなければならない。特に自動翻訳がされる機能は、「API」の仕様や遅れる文言を選択式にするなどのアイデアが考えられる。また、機能のアップデートだけではなく、UIとUXの改善も必要だ。実際に本アプリを複数人に試験的に使用してもらい改善箇所を明確化していく必要がある。
上記の施策に加え、ビジネスとしてエシカルファッション領域において成長する上で資金の調達は必要になると考えられる。そこで、「TSUNAGU PRODUCT」を題材にエシカルファッション領域においてベンチャーブランドの資金調達の可能性について分析、仮説検証を行なった。
本分析および仮説検証において主に、三つのことがわかった。一つ目は、エシカルファッション領域に置いては、オンライン(EC)を専門に事業展開を行っているブランドが少ない。2つ目は、ECサイトでの事業展開には莫大なマーケティング予算が必要であるということである。最後は、黒字転換するのに1年以上もの期間は必要であると考えられるということだ。
本研究では、「エシカルファッション領域におけるビジネス的成長を遂げる為の手法の開発と実践」をテーマに様々な分析、開発、実践、仮説検証を行なってきた。「クラウドファンディングでの資金調達」については、開発・実践を行い結果・考察を行うことができた。しかし、その他の手法に関しては、いずれも開発段階や仮説検証段階である為、十分な結果を得ることができていない。
上記で挙げた挙げたように、「施策②生産者を近くに感じる為のアプリケーション開発」におけるアップデートと改善を行い、リリースをし、実際に「生産者との心理的距離が近づいたのか」を検証する為ユーザーへのアンケート調査などを行う必要がある。
また、本アプリのリソースの為の費用はもちろん、「施策③大型の資金調達」がエシカルファッション領域に置いて有効なのかを検証する為に開発を遂行し、実践をしていくことでより深い研究結果が得られると考えている。
本ゼミ論を元に、2020年度の卒業論文にて引き続き本テーマでの研究を行なっていく。
参考文献リスト:https://docs.google.com/spreadsheets/d/174jl-ogH3FBTaF8miNLOorD5lDfXzhEpc6h1oeVztmA/edit?usp=sharing